国際武道大学 附属武道・スポーツ科学研究所

設立経緯と歴史

国際武道大学附属武道・スポーツ科学研究所は、1986年6月に日本武道館によって大学の隣接地に設立された「武道科学研究センター」を、10年後に譲渡されて、1995年10月に開設されたものである。

研究所長 土居 陽治郎

1. 日本武道館「武道科学研究センター」の設立(1986年)

日本武道館には、当初は国際武道大学の設立とともに、「武道文化研究所並びに武道医・科学研究所」を設置して、日本における武道研究の中核的な場としようとする構想があったが、1983年4月に大学の設立とは切り離して、「武道科学研究センター」として建設することにし、車輌競技公益資金記念財団からの補助金を得て、1986年に国際武道大学の隣接地に建てられたのである。こうした経緯から、武道科学研究センターは「日本の武道研究者の共同施設」と位置づけられ、江崎真澄・日本武道館理事長が初代所長となり、運営委員には日本武道館と国際武道大学の常務理事、日本学術振興会理事長、日本武道学会理事長、全日本剣道連盟専務理事、読売新聞社編集委員などが就任し、研究統括委員には東京大学、筑波大学、埼玉大学などの教授も参加していた。もともと研究センターの施設設計や機器設備の計画段階から、設立準備委員会が設けられ、ヨーロッパ班、アメリカ班、国内も2班に分かれて2週間から数日にわたる調査を行って、その成果を活かして当時の最高水準の研究所とすることが目指されていたのである。

建物は、地下1階、地上4階の鉄筋コンクリート造り、建築面積956.73m2、総延床面積3,433.30m2である。

地階 B101運動生理学研究室、B102トレーニング科学研究室、B103体力測定室
1階 101保健・心理学研究室、102メディカルチェック研究室(手術室も含む)、
104-107理学療法室(レントゲン室、リハビリテーションプールも含む)
2階 所長室兼事務室、会議室、207-208解剖・組織学研究室、209生化学・栄養化学研究室、210視聴覚実験室
3階 301データ処理・資料整理室、303資料保存室、304電算室、305-306運動学研究室(4階に観察用デッキ)
4階 401プロジェクト研究室、404特別研究室、405視聴覚研究室
5階 501実験動物飼育室

これらの各研究室・実験室には、当時の最新の実験機器が2次にわたって整備され、国際武道大学の教員が兼任の研究員となって1986年10月から本格的に研究が開始された。

開学当初の国際武道大学には、武道・スポーツ史の岸野雄三、スポーツ科学の松井秀治、スポーツ心理学の鷹野健次、解剖学の伊藤金得ら斯界の第一線の研究者が集っていた。実技系では、柔道は戦後の第一回全日本柔道選手権優勝者で東京オリンピックの監督も務めた松本安市八段、第12回世界柔道選手権優勝者の柏崎克彦七段(当時)ら、剣道は小森園正雄八段(後九段)範士、佐藤清秀八段範士、第5回世界剣道選手権優勝者の蒔田実七段(当時)らもいたので、彼らの協力を得ながら、研究が推進された。

研究センターは、武道文化研究部門と、武道医・科学研究部門に分かれ、武道大学教員を中心に5つのプロジェクト研究が行われた。

  1. 武道におけるターミノロジー
  2. 武道思想の変遷
  3. 武道における障害のバイオメカニクス的研究
  4. 武道体験の心身論に関する生理・心理学的研究
  5. 筋の機能及びその鍛練に関する解剖・生理学的研究

研究成果は、日本武道館発行の月刊『武道』などに発表されていたが、1989年3月に「武道科学研究センター年報」が発刊されて以降、これが発表の場となる。

1989年3月には、本研究センターを活用して、日本武道館主催、文部省後援、国際武道大学協力で、在日外国人武道家を対象として、武道の理論、技術の指導と歴史的、科学的研究の理解を深めるために「第1回国際武道文化セミナー」が開催された(19カ国から80余名が参加)。これ以後、国際武道文化セミナーは毎年3月に開催されている(2011年までに毎年欠かさず計23回開催されている)。

1991年3月に、研究センターの西側に連絡して国際武道大学の4階建ての8号館(講義・研究棟)が完成し、大学の研究教育との緊密化が一層進んだ。

2. 国際武道大学「附属武道・スポーツ化学研究所」の開設(1995年)

日本武道館の武道科学研究センターでの研究は、10年を経過した1995年6月に土地・建物ともに国際武道大学に譲渡・移管され、同年10月「国際武道大学附属武道・スポーツ科学研究所」がスタートした。研究所は、武道だけでなく広くスポーツの研究を行うことになり、翌96年4月開設の国際武道大学大学院(武道・スポーツ研究科)の研究・教育分野に応じて、武道・スポーツ文化、運動健康科学、スポーツ科学の3研究部門体制となった。

大学の附属研究所となっても、実験室・研究室の配置は基本的に変わりはないが、設備・機器は、必要に応じて新機種を導入している。プロジェクト室や研究室の一部は大学の教員の研究室や教室としても使用されるようになった。
国際武道大学附属研究所となったので、研究は大学のプロジェクト研究として行われるようになった。国際武道大学の研究者も世代交代が進んでおり、運動生理学の成澤三雄が所長となり、武道・スポーツ文化研究部門は魚住孝至、運動健康科学研究部門は田邉信太郎、小林啓三、スポーツ科学研究部門は大道等らの助教授・教授が中心となって研究と大学院の教育とを担うようになった。1996年から「武道・スポーツ科学研究所年報」となったが、日本武道館から出版の補助を受け、プロジェクトの研究成果と国際武道文化セミナーの資料を掲載した年報は、武道関係機関と関係者に配布されている。

1997年度から、3研究部門に明確に対応した3ヵ年のプロジェクト研究が行われるようになった。

A. 武道・スポーツ文化研究部門 (1)武道文化
(2)武道データ・ベース化
(3)スポーツ文化
B. 運動健康科学研究部門 (1)伝統健康論における運動と健康生活
(2)健康に及ぼす運動の影響
C. スポーツ科学研究部門 (1)武道・スポーツにおける運動機能の効率的な評価方法
(2)体力の評価方法
(3)脳の機能の評価方法
(4)内分泌機能からみた運動機能の評価方法などに関する研究

3. 21世紀を迎えて - 新学科の設立(2001年)

21世紀を迎えるにあたって、武道大学から広く情報発信するために、1999年度に、武道指導者と人文系・自然系の研究者を集めた特別プロジェクト「21世紀の武道と研究の課題」を発足、2000年3月に、武道の古典研究、剣道、柔道の指導法、柔道・空手道のバイオメカニクス研究を載せた英文の論文集"Budo Studies -An Anthology of Research into Budo in the 21st Century"を刊行した。研究所編の最初の小冊子であったが、大変好評で、翌年、その日本語版『武道研究 ― 21世紀の武道と研究の課題』を刊行した。(同プロジェクトでは、2001年2月にデンマークで開催された松前重義杯国際柔道大会に合わせて、当地で武道フォーラムを行い、2名が講習会と講演を行い、2003年2月にはヨーロッパ武道フォーラムとの共同主催で、ハンガリーのブダペストで武道セミナーを開催し、3名が講演し、好評を博した。)

2001年度から武道学科、体育学科に加えて、新たにスポーツトレーナー学科、国際スポーツ文化学科が設立されることになったので、2000年度から研究所プロジェクトは、特定課題の他、新学科の教育ソフト開発、情報、国際交流の柱と一般公募も加えて行われるようになった。2003年度からの3ヵ年のプロジェクト研究では、3研究部門の特定課題の他に、13にのぼる一般公募研究(武道・スポーツ指導法や外国語による武道・スポーツ指導マニュアルの工夫、地域における健康・体力づくりの企画、トレーナー教育の実践、スポーツQOLプロジェクトなど)が行われ、研究領域が広がることになった。

2006年度には、「武道と現代に関する総合的研究」として、3研究部門の連携を模索する試みや、「武道の比較文化論的研究」として、東アジアにおいて日本の武道を性格づける研究もなされたが、研究分野、研究方法、問題意識の相違は大きく、各プロジェクトを統合した体系的な総合研究はなかなか難しいのが現状である。

4.「附属武道・スポーツ化学研究所」の最近の動向(2007年〜現在)

2007年度から、プロジェクト研究は、大学の教育全般に関わる「大学教育研究プロジェクト」を新たに設けたのに伴い、「研究所プロジェクト」は武道の研究に特化することになった。2008年度から、研究所は大学の研究全体を統括・支援するセンターの役割を担うことになった。
施設面でも、2007年4月には、大学創立20周年記念事業として、研究所の南側に連絡して地下1階地上5階の9号館が開所した。9号館には、地下にストレングス、1階にフィットネスのトレーニング室が置かれ、大規模で本格的な機器が整備され、研究所B101のトレーニング機器類も移動した。これに伴って、再配置して、研究所B101は、手狭になっていた1階のリコンディショニング室の機能を補う第2リコンディショニング室となった。401室は、地域との連携した幼少期発育・発達プロジェクト室とした。

2007年8月には、長年の研究所プロジェクトの実績を踏まえて文部科学省に申請した「学生によるスポーツ医科学サポートシステム~傷害予防とリコンディショニングの指導実践」が、平成19年度「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された(全国76大学からの申請取組、採択率13.3%)。この取組は、「特色GP(Good Practice:優れた取組)」として、3年間の多額の補助金を得て、文部科学省主催のGPフォーラムや特別企画のセミナー・講習会などを通じて、その内容を一般に広く紹介するとともに、より一層の内容の充実を図った。終了した2011年度からは、大学教育研究プロジェクトで展開している。

2007年12月には、人体科学会第17回大会が本学で開催されたので、研究所も共催でシンポジウム「動きから身体・人間の可能性を考える」を企画、本学教員がコーディネーター・スピーカーとして発表した。

2008年度には、大学ホームページに研究所専門サイトを制作して、研究所ならびに大学全体の研究を広く紹介していくことにした。

また研究所編集の『武道論集』3巻シリーズを発刊して、武道の振興に寄与することを目指した。

第1集「武道の歴史とその精神」は、武道文化の形成から展開、剣道、なぎなた、弓道、柔道の歴史とその精神を論じ、略年表や武道団体等の資料も付録に載せて、2008年7月に刊行した。

第2集「中学校保健体育における武道の指導法」は、2012(平成24)年度からの中学校における「武道の必修化」に対応して、柔道、剣道、なぎなた、弓道の指導法について、中学校の3学年の週13時間の授業計画案を、写真を多く掲載して示したものである。2009年9月に刊行したが、日本武道館から各種講習会で配布するとして500冊の要望があったのをはじめ、都道府県の教育委員会からの要望や、全国各地での武道講習会で使いたいとの要望、さらには武道関係雑誌研究所サイトを見ての要望など、半年間で累計2200冊を配布した。

『武道論集』第1集について、英語版をとの要望が強かったので、2010年9月に、"Budo Series Vol.1 The Sprit and History of Budo"を作成・刊行した。この英語版では、海外での普及度が高い空手道の章を加え、巻末に英語、フランス語、 ドイツ語、スペイン語の武道文献紹介を付した。国際武道文化セミナーをはじめ、日本武道館主催の海外での武道フェスティバルなどでも配布されている。

また2010年12月には、日本語版にも空手道の章を加えて、第1集増補版として増刷した。

第3集『グローバル時代における武道』は、第1部で中国武術や朝鮮・韓国武芸と比較をして日本の武道の独自性を顕わにし、第2部では柔道、剣道の国際化の実態、海外での展開など示し、武道の将来を展望した。2012年3月刊行。英語版"Budo Series Vol.2 Budo in the Global Era"は、2013年3月刊行。

研究所のプロジェクト研究については、2010年度からは大学の教育・研究の中期計画に基づいた、大学教育研究プロジェクトと研究所プロジェクトの3年間の研究が始まった。武道に特化した研究所プロジェクトでは、武道文化の成立基盤、現代武道の諸問題、武道健康論、武道データベース構築の特定研究に加え、一般公募の中国武術と障害者武道の研究や普及活動が行われた。

2010年7月、研究所セミナーとして、サッカーワールドカップ南アフリカ大会日本代表チームの帯同ドクターの講演があった。

2011年8、9月、第44回日本武道学会が、本学で開催された。本学教員は準備・運営に力を尽し、特別講演ほか、多くの発表、ポスター発表を行った。

2013年には、学科が再編成され、国際スポーツ文化学科とスポーツトレーナー学科は体育学科に入る形で、武道学科・体育学科体制となった。カリキュラムも初年次教育を重視して大幅に変更された。
2013年で大学創立30周年となったので、研究所では小冊子『附属武道・スポーツ科学研究所 研究概要(1986~2013)』を作り、研究所の過去を振り返るとともに、現在の研究を紹介し、将来を展望する、分野ごとの3つの座談会の記録と、最初の武道科学研究センターからこれまでの年報のすべての号の目次を掲載した。

なお、大学創立30周年を記念し、研究紀要第29号別冊として「創立30周年記念特集」を刊行した。

当研究所は、研究を通じて武道ならびにスポーツの発展に貢献できるように努めていく所存ですので、今後ともご支援の程、よろしくお願い申し上げます。

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